社説(6/19)：河井夫妻逮捕／首相と自民党の責任大きい - 河北新報

河井夫妻逮捕／首相と自民党の責任大きい

　次から次へと疑惑が出てきて強制捜査は時間の問題だった。逮捕に驚きはないが、現職議員の夫妻による、選挙の公正をゆがめる大掛かりな現金買収はやはり衝撃だ。
　昨年７月の参院選広島選挙区を巡り、票の取りまとめなどを依頼する趣旨で地元県議らに現金を配ったとして、公選法違反（買収）の疑いで前法相の河井克行衆院議員（広島３区）と妻の案里参院議員が逮捕された。
　買収が明らかになったのは、案里容疑者の公設秘書らによる別の公選法違反事件がきっかけだった。選挙カーでアナウンスする車上運動員に法定上限を超える報酬を支払った疑いで３人が逮捕され、公設秘書は有罪判決を受けた。
　捜査の過程で、克行容疑者の関係先からリストが押収されたという。夫妻が昨年４月の統一地方選の前後、広島県議や地元首長ら約１００人に計約２６００万円を渡した疑いが持たれている。
　夫妻は通常国会が閉会した１７日に自民党を離党した。買収行為を否定する一方、詳しい説明は避けてきた。克行容疑者は同日、「法にもとるような政治行動を行ってきたことはない」とだけ語った。
　現金はあくまで「陣中見舞い」「当選祝い」だったと押し通すつもりのようだ。
　現金が渡されたのは案里容疑者の立候補が決まった後。克行容疑者から直接、応援を頼まれたとの証言もある。参院選とは無関係との釈明は説得力に乏しい。
　渡した額は１人２０万円前後になる。「お祝い」としては破格で、そのつもりだったとすれば金銭感覚を疑う。
　広島選挙区（定数２）で自民党県連はベテラン現職１人を擁立する意向だったが、「２議席独占」を旗印に案里容疑者が割って入った。克行容疑者は首相補佐官を務めるなど安倍晋三首相に近く、立候補は官邸と党本部が主導した。保守分裂の激しい選挙の末、現職は落選した。
　案里容疑者の陣営には党本部から、現職の１０倍に当たる１億５０００万円もの送金があった。現金の大盤振る舞いは巨額の選挙資金が入るあてがあってこそだったろう。
　党からの巨額資金の使途について、二階俊博幹事長は「広報誌を複数回、全県に配布するために使われたと聞いている」と、まるで人ごとのようだ。地元政界を巻き込んだ大規模現金買収の責めは、党も負ってしかるべきだ。
　安倍首相の責任も免れない。昨年１０月、案里容疑者の公選法違反疑惑が週刊誌で報じられて克行容疑者が法相を辞任した際、首相は「任命したのは私だ。こうした結果になり責任を痛感している」と述べたが、責任を取ることはなかった。
　法秩序を守るべき法相に抜てきした元閣僚の逮捕という異常事態に、言葉だけの謝罪で済ますことは許されない。

2020年06月19日金曜日

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