公正取引委員会が、独禁法違反（優越的地位の乱用）の疑いで調査していたアマゾンジャパンに「確約手続き」を適用し、同社の改善策を認定した。取引業者への総額約２０億円の返金が盛り込まれ、公取委幹部は「効果は大きい」と胸を張る。だが世界的に巨大ＩＴ企業への規制が強まる中、違法認定せず行政処分を見送る判断に、関係者からは「独禁法の抑止力に影響が出る可能性もある」と懸念の声が上がる。
最終目的
公取委がアマゾンジャパンを立ち入り検査したのは２０１８年３月。今年７月、通常の審査から確約手続きに移行できることを通知し、８月末に改善策が提出された。納入業者に値引き分を負担させるなどの不当要求をやめるほか、約１４００社に計約２０億円を返金するとの内容だった。
公取委が通常の審査を続行した場合、個々の取引先に対してアマゾンジャパンが優越的な地位にあることや、違反行為を詳細に裏付ける必要があった。また、独禁法違反を認定し課徴金納付命令を出しても、課徴金は国庫に納付されるため業者の被害回復はできない。
公取委は今回、返金額など改善策の内容をめぐり、新型コロナウイルス禍でも毎週のように電話会議を開いてアマゾンジャパンと折衝し、落としどころを探った。「２０億円は、再発防止措置の確実な実施を促すのに十分な規模。課徴金に相当する痛みになる」。事件を担当した幹部は、そう自賛した。
強い姿勢
独禁法違反容疑で公取委の調査を受けたアマゾン側が、違法認定を免れたのは今回で３度目だ。１６年と１９年、自社の通販サイトでの価格設定やポイント還元サービスをめぐって調査を受けたが、いずれも違法の疑いがある行為を撤回したため、調査は打ち切られた。
独禁法に詳しい弁護士は「調査を受けても謝ればいいという印象が広がることで、独禁法の抑止力に影響が出る可能性もある」と指摘。返金について「金額のインパクトはあるが、重要なのは被害を本当にカバーしているかどうかだ」と話す。
インターネットサービスの基盤を提供するグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・コムの米ＩＴ４社「ＧＡＦＡ」をめぐっては、世界的に規制強化の動きが広がっていることもあり、公取委内部には今回、「排除措置命令を出して強い姿勢を示すべきだ」という声もあった。
立教大の舟田正之名誉教授（経済法）は、確約手続きが違反事実を認定しないため、公取委が法的にどういう判断をしたかが分からないと指摘。「事実認定が難しく、係争が長期化する恐れがあるという理由だけで安易に用いるべきでない」と慎重な運用を求めた。その上で「確約手続きが排除措置命令に代わって行われる合理的な理由があるか、外部から検証ができるようにしておくことが重要だ」と述べた。
【用語解説】確約手続き 独禁法違反の疑いで調査を受けた企業側が、違反行為をやめて改善に取り組むことに合意した場合、課徴金納付命令や排除措置命令といった行政処分が免除される制度。２０１８年１２月に発効された環太平洋戦略的経済連携協定（ＴＰＰ）に伴って導入された。談合やカルテルなど重大な違反を除き、新規参入を排除する「私的独占」や、競争相手の取引を不当に妨げる「取引妨害」などが対象。公正取引委員会が適用すべきだと判断した場合に企業側に通知し、企業側が応じるか判断する。
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September 15, 2020 at 03:00AM
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１４００社に返金「効果大きい」 アマゾン改善策認定、法の抑止力影響も - SankeiBiz
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